ホールショット・トゥ・フィニッシュ

視線は,第一コーナーに向けられ、耳には,もう自分のマシンのエンジン音しか聞こえない、クラッチを握る左手の指先、感覚を確かめながら、少し戻す、エンジンのトルクがギアを通じ、チェーンを引っ張る、ハンドルに覆い被さるように、上半身を前傾させ、フロントが浮き上がるのを押さえる。
 アクセルをひねる、回転音が上がる、力強く、待ち切れんばかりの音となって身体中を包み込む、一瞬、音も、風も、時間さえ止まったかのように感じる、次の瞬間左の指先は,レバーをあやしながら開放し、右の手首は,女性を扱うように大胆に,かつ繊細にアクセルをひねっていく、前輪は,スタートマシーンを地面に叩きつけながら、跳ね馬のように空を駆き、後輪は,有り余る力に空転しながらも、トラクションを保ち、俺達を第一コーナーめがけ押し出している。
 前に数メートル、回転数は,ピークに達し、ギアを掻き上げる、加速感が増し、もう1速、砂時のストレッチをしっかりとタイヤは,噛みながら、俺達は,砂埃を舞い上げ、第一コーナーめざし突き進む、スタート直後から前輪は,空中に浮いたまま直線の半分ほどを走り、私と左アウト側を走るジェフ以外、ホールショットを狙えるポジションの奴はいない。
 第一コーナーは,ストレッチから少し下りながら右へ曲がり出口では,完全な下り坂となる。おまけに地面は,サンド、優しく柔らかい中に、悪魔が潜んでいる。
 ジェフの動きを視界の端で捕らえながら、いつもよりクリッピングを手前に取り、奴よりも早くコーナーに入った、身体を全体に後ろに引きながら、減速、前輪のコントロールを保ちながらギリギリのスピードでクリッピングポイントを通過、シートに腰を落とし、思いっきりアクセルを開く、ホールショットは、戴いた!前には、誰もい無い、思いのままのラインで、俺達は、ダンスを楽しみ始めた、ジャンプもいつもより決めてみた、2度目の第一コーナー、なんとそこには、かからないエンジンにキックの鬼となった、ジェフがいた、彼は,前に出られた俺達の砂煙に方向を失いワイプアウトしたらしい、試合後に彼から「やられたよ!」の一言、俺達は,その後
順位を変えることなく、チェッカーフラッグを受け、ホールショット・トゥ・ウィン 

若き日の一幕(少し造り話含む)


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